庭を歩いてメモをとる

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生態系は壊滅し産業は勃興した-ダーウィンの悪夢

アフリカのヴィクトリア湖は、「ダーウィンの箱庭」と言われるほどの生物多様性を誇る貴重な環境を有していました。そこに数十年前、何者かがナイルパーチという巨大で悪食の魚を放流。あっという間に湖の生態系は壊滅。一方で、この魚をヨーロッパや日本*1に輸出する産業が勃興。一部の者は富みましたが、多数の貧困層も出現。こういった、ささいな試みが自然と人間双方の環境を激変させた結果を追うドキュメンタリーです。

こう書くと、ヴィクトリア湖の変遷を追った映画のように思われるかもしれませんが、実際はただ現在の湖のほとりの街の人々を淡々と映し出し、インタビューしていく、そういうつくりです。劇的な演出もドラマティックなシーンもありません。貿易業者、漁業関係者、売春婦、ストリートチルドレン、解体された魚、湖上の飛行機。

ただそれは、現在の日本では想像が難しい「別世界」でありながら、ナイルパーチを通じ自分にも直接つながっている「現実世界」でもある。それだけに、後ずっと残るような鈍い衝撃を感じました。要するに、画面だけではなく、画面と背景事実の相乗効果で観る者にくい込んでいく、そんな作品なのかもしれません(画面だけでも衝撃を受けた箇所はいくつかありましたが)。

総じて、質の高いドキュメンタリーだと感じましたが、気になった点もありました。ひとつは、作品のキャッチコピーである「一匹の魚から始まる、悪夢のグローバリゼーション」。この映画に映し出された事実だけをもって、グローバル化が悪であるようなイメージを与えるのは軽率であるように感じました。もうひとつは、一点目とも関連するのですが、インタビューの随所で、「魚を運ぶ飛行機は、兵器も積んでいるのではないか?」という推測をもとにした質問が行われていること。ここは、見方を変えればこの映画のいちばん興味深い部分でもあるのですが、個人的には、どうせなら最初から最後まで淡々とした撮り方に徹した方が作品に街により入り込めたように感じています。

いずれにしても、私にとっては、世界の見方を少し変え、いろんなことを考えさせられる「力」をもったドキュメンタリーでした。

参考:公式サイト

*1:数年前まで「白スズキ」という名称で売られていたそうです。現在は原材料表示の厳密化により「ナイルパーチ」と表示されているとのこと。


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