[物語]
1922年、ニューヨークに引っ越してきた30男のニック。自身はつつましい生活を送っているが、住み始めたのは豪邸ばかりが建ち並ぶ地域。そんな中でも特に広大な敷地と壮麗な建物を構えているのが隣人、ギャツビーだった。この謎の男の人となりを知るため、ニックはこの屋敷で催されるパーティーに足を運んでみるが・・・
[感想]
村上春樹の新訳。春樹さんのこの小説に対する賛辞の数々から、大きな期待をもって手にしましたが、期待に違わない内容・質でした。
帯にある「哀しくも美しい」というよくある言葉がここまですっとあてはまる小説もなかなかないと思います。豪奢なパーティのはかなさ、男女の想いのすれ違い、力を持つ者の「測りがたい無思慮」、唐突な悲劇、そしてギャツビーの持つ遙かな意思とそこからくる振る舞いなどが実にクラシカルな文章で綴られています。ここでのクラシカルというのは、質が高く丁寧で、時の流れにさらされても長い間その価値を失わないでいそう、というような意味です。これについては、春樹さん渾身の翻訳も大きく貢献しているのでしょうね。
久しぶりに、何度も読みたくなる海外の小説に出会いました。物語も文章も、何度も味わうだけの価値と強さを持っているから。
読み終わってふと目に入った表紙の写真が、実に切なく見えてきました。読む前は特に気に留めなかった、水に浮かぶただの枯れ葉の写真なのに。この印象の違いこそが、この作品の力を表わしているのかもしれません。
野崎孝氏の訳でも読んでみたくなってきた。