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シンガポールの「異人種同士を対立させない政策」とは

シンガポールは、以前から関心のある国のひとつでした。西洋の植民地だった過去を持ちながら、独立後驚異的とも言える発展を遂げています。大抵の「元植民地」は独立後も苦しい日々が続くのが普通で、もっと言えば独立前よりも混乱することがほとんどなのに、この国は違いました。その発展具合も尋常ではなく、一人あたりGDPが元宗主国イギリスを超えたこともあると聞いています(ソース未確認)。これは前代未聞といっていいのではないでしょうか。

しかし一方で、自由主義陣営とはいえ政府の管理が強いことでも知られています。多くの規制・罰金※だけでなく、様々な政策がそれを物語っています。

※参考:必読!罰金の国シンガポールの知っておきたい6つのルール(JTB)

その中でも、「国内の異人種同士を対立させない政策」と、「時には優生学とも結びつけられるほど『過激』な、優秀な人材の育成・確保策」の2点が、harvest blogさん(現在リンク切れ)とのやりとりの中で興味がふつふつと湧いてきたので、調べてみることにしました。まず今回は「国内の異人種同士を対立させない政策」のうち、住宅に関する取り組みについて、↓の本で調べてみた次第です。


シンガポールの「人種混合プログラム」

シンガポールの国内の人種構成比は中華系76.0%、マレー系13.7%、インド系8.4%、その他1.8%(外務省サイトより)で、主に3つの人種が入り交じっています。いわゆる多人種国家です。

このような状況で、政府は人種間の対立を避けるためにどうしたのでしょうか。よくあるパターンで、人種毎に居住区を分けたのでしょうか。実際はその逆です。1960年に設立された住宅開発庁が、以下の思い切った二つのプログラムで人種間の融和を図っています。

ひとつは、人種混合プログラム。入居時の抽選割り当ての際、団地全体での人種集団別の配分を国内の人種構成比に近づけるという仕組みです。だから、同じ団地にマレー系だけが固まって住む、などということにはならないのです。

しかし、いくらそんなプログラムがあっても、人々が公共住宅に住まなければ、人種毎の居住区、最悪の場合スラムができたりしてしまいます。ではどうしたのか?そこで二つ目の「住み替えプログラム」。住民に補償金を与え土地を強制収用し、そこに高層公共住宅を建て、住まわせるという、「居住場所の自由」と「公共の福祉」とのバランスでいえばかなり後者寄りのやり方です。日本じゃまずできないやり方ですし、このやり方に悲しみや怒りを感じた国民もいたことだろうと推測します。


(↑2001年10月よしてる撮影の公共住宅。ガイドさんの説明によれば、各戸の配置までが「人種混合」されているとのことでしたが、この本やネットではそういう記載はありませんでした。)

このようなやり方で、シンガポール政府は民族別コミュニティを解体し民族を「混合」させ、多人種国家の基礎を作ろうとしたわけですが、さてその後はどうなったのか。


「人種混合プログラム」実施結果

結果、(おそらく90年代の数値だと思いますが)人口の87%が住宅開発庁が設置した公共住宅に住むようになりました。また、公共住宅の住民は、各人種間でそれぞれの正月などに贈り物の交換や招き合いをしているまでになったそうです。その上、留守中の子守、鍵の預かり、諍いの仲裁など、かつて日本でも見られたような地域共同体のいい面が出てきているとのこと。

政府は、公共住宅に加え「コミュニティ・センター」も設置。生涯教育、レクリエーション、レジャー活動を通じ人種間に調和をもたらすのが目的だったそうですが、これも機能しており、高層マンション生活にありがちな地域コミュニティの断絶を和らげているようです。こうした地道な取り組みも政策の成功を後押ししているのかもしれません。

ただ、住宅の再販時には「混合プログラム」が適用されなかったため、80年代に人種の再結集化の動きは見られました。やはり同じ人種のほうが落ち着くし意思の疎通もしやすい、というところでしょうか。しかし政府はその兆候が出てきたとわかると、89年、再販時にも「人種混合プログラム」を適用するようにしました。結果、公共住宅における人種の混ざり具合は、再度国全体の比率に近いものになってきたとか。

シンガポールの政策は、このように、「個人の権利は多少犠牲にしてでも、国民の大部分の利益になるなら臆せず即実施する」というところに基本線があるような気がします。これを全体主義というか民主主義(多数決)というかは賛否両論あるでしょうが、いずれにしても結果を素早く出す政府ってたいしたものだな、とは感じます。琵琶湖と同じ大きさで、人口は横浜市程度の小さな国だからこそできるという面は確かにあるとは思いますが。


関連メモ

もうひとつの気になる政策「時には優生学とも結びつけられるほど『過激』な、優秀な人材の育成・確保策」については、以下にメモしました。


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