いやあ、面白かった。特に後半の盛り上がりが。うまいこといいタイミングで次々と飽きさせないような仕組みで引っぱられ、クリスティーの原作を読了済みでも充分に楽しめました。
まずアイデアに脱帽。「ABC」に土地だけでなくもうひとつのものを絡めた上に、それをこの物語全体のテーマにもしていたところが秀逸でした。原作を読んでいるので、そこをどう料理するか、そのお手並みを拝見することが一番の楽しみであり期待だったのですが、そこは期待以上にクリア。脚本家の藤本有紀さんがサイトで書いていた「ここで安易に「いろは殺人事件」にしてしまったら、きっとあらゆることが将棋倒しに安易になってしまう。それだけは決してしないと心に決めました。」という思いは見事に結実していたと思います。強引さや矛盾も感じなかった上、このアイデアによって、NHKがこのドラマをやる意義まで付け加えているところもすごい。
逆にもう少し観たかったのは、赤富士と旧友如月の関係。徐々に如月と赤富士の想い出が語られていき、その友情が見えてくるのですが、詳細は語られずじまい。もうちょっとここを観たかったのですが、それは翌日または続編に期待、というところでしょうか。
映像の端正さも印象的でした。建物から服装、本の装丁に至るまで、この頃の日本の和洋折衷のデザインセンスがこんなに「現代にも通用しうる」ものだったとは、再発見でした。西洋のテイストの「モダンさ」もいいのですが、そこに「和」の要素もいいバランスで存在している。例えば、赤富士鷹はその両方をうまく着こなしていたように思います。舞台となる土地のステンドグラス風の「扉絵」もそうですね。
そんな映像に、ほとんど全編明るく強い光が差していたのも印象的。昭和初期というと戦争に突入する前の暗い時代というイメージがあったのですが、このころ(昭和11年、2.26事件の年ですね)はまだそうでもなかったのかもしれない(しかしラジオでは時折将来を暗示するような内容も流れるのですが・・・)。
とにかく、映像のためだけでもまた観てしまいそう。それに単純な私は、これを観て神戸の旧居留地などの洋館に行きたくなってしまっています。
以上、翻案ものって、ゼロからつくるのとは別に原作という土台・制約がある分独特のアレンジセンスが問われると思うのですが、このドラマでは原作を無理なく昇華させていたと思います。原作の骨子は残しているけど、別の作品としての味もしっかり産み出している。原作を壊していないけど、原作を読んだ人も楽しめる。これはなかなかできないことかも。
明日の「愛しのサンドリヨン」も観ようっと。