つい先日、ギネスにも「もっとも売れた業務用ゲーム機」と認定されたナムコのパックマン。その作者がつづる自身の半生と業界の変遷、ゲーム開発秘話、ゲームデザインのビギナー向けノウハウ、そして対談集。
1980年代前半のナムコに特別の思い入れがある私としては、やはり「ゲーム開発秘話」に目がいきます。個人的に知らないエピソードが満載で非常に興味深く読めました。この岩谷氏がナムコ初のビデオゲーム「ジービー」のゲームデザインにも携わっていたこと、当初「パックマン」のミニ寸劇「コーヒーブレイク」はプログラマから「やりたくない」と言われていたこと、社長が試験プレイしたら大変楽しんだものの「モンスターの色を赤一色にしろ」と言われ、いったん引き下がったが後に社内アンケート結果を見せ4色のままにしたこと、発売直前にパックマンとモンスターのスピードを2倍にしたことなど。
そして、傑作「リブルラブル」までも、氏のゲームデザインがもとになっていることも知り驚きました*1。「パックマン」とともに、オリジナルなゲーム性でまったく新しい世界を魅せたこの作品も岩谷氏のアイデアから始まっていたとは。しかも、この「リブルラブル」、ゲーム業界初の「ゲームの中に広告を入れる」アイデアまであったとのこと。ポテトチップスの広告を想定していたので元々のタイトルは「ポテト」だったのだそうです。いやはやアイデア満載の名作ですね。
岩谷氏の考えに触れたり作品を思い出したりしていると、任天堂の宮本茂氏(「ドンキーコング」「スーパーマリオブラザーズ」「ゼルダの伝説」「ピクミン」等のゲームデザイナー)を思い出しました。同じような「オリジナルなゲームそのものの楽しさ」に基づいてゲームを作っていそうだなと思っていたからなんですが、読み進めていくと本の後半で二人が対談していてこれも興味深かったです。
そのような「この人だから書ける」内容に加え、全体的に、岩谷氏の「非常にソフトで押しつけがましくないながらもゲームへの哲学については確固とした信念を持った」語り口が好印象。ラストの対談相手がナムコ創業者・中村雅哉会長だったこともあり、読み終わった後には、ナムコがバンダイと合併する直前にこういった本が出てくるこのタイミングに(当然狙っているんでしょうが)感慨を覚えました。
岩谷氏、今は東大大学院で教鞭をとっているそうです。今後はもうゲームは作ってくれないのかな。