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日本人の謙虚さが統計に及ぼす影響-本川裕「統計データが語る日本人の大きな誤解」

本川裕さんのサイト「社会実情データ図録」はよしてるの大のお気に入りです。その名の通り、社会の実情をデータとわかりやすいグラフで示してくださる上、考察が非常に興味深いからです。しかもその対象は幅広く更新のペースも長年変わらず安定していて、そういう点でも敬意を表したくなります。そんな作者さんが本を出されているので、サイト同様興味深く拝見しつつ、個人的な意見も加えてみることにしました。


日本人は日本を控えめに評価している

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引用元:図録▽日本を世界はどう見ているかから「世界評価と自国評価の違い」

イギリスBBCによる世界世論調査をもとに本川さんが作成されたグラフです。ある国に対し「世界にプラスの影響を与えているか、マイナスの影響を与えているか」を評価したものです。他国民による評価と自国民による評価の両方があります。

このグラフに出ている12カ国の内、日本が他国から「世界にプラスの影響を与えている」と評価されている順位がドイツ、カナダ、英国に次ぐ4位と比較的高評価なのは日本人としてうれしいです(後述しますが、日本は評判上位の常連国です。)。

さて、このグラフからは、日本だけの特徴として「『自分の国が世界に対してプラスの影響を与えている』と評価する人の割合が、自国民より他国民の方が高い」ことがわかります。この点を見ると、日本人は他国の人に比べ、自国を控えめに評価しがちで、謙虚であるといえそうです。

このことを、他のデータと一緒に考えてみます。


日本人はストレスを感じにくい?

本書によると、日本人はストレスを感じにくいそうです。以下に、その根拠とされるグラフを引用します。

日本人は仕事ストレスが少ない

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引用元:図録▽日本は仕事のストレスが多い国か

疲れを知らない日本人

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引用元:図録▽疲れやすい国民・疲れにくい国民

日本人にはうつで悩んでいる人も少ない

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引用元:図録▽うつ状態で悩んでいる人が多い国は?(アジア・太平洋版)

以上のデータを元に、本川さんは本書で次のように述べています(P.156)。

日本人は長時間労働なので、仕事以外に楽しみはなく、労働によって疲れ果てており、仕事のストレスから、うつ状態に陥る者も多く、その結果、自殺率も世界一だ、というネガティブな見方があるが、これは誤りである。

統計データが語るところでは、日本は、長時間労働の国であり、自殺率の高い国であるが、仕事のストレスは、特段、大きくはなく、仕事の疲れもあまり感ぜず、また「うつ」になる人も少なく、むしろ、睡眠を削ってまで自由を謳歌し、おしゃれをしながら楽しく暮らす傾向にある、というのが国際比較から見た日本人の特徴である。(よしてる注:引用元には、結論部分の根拠となる統計データの記載箇所が記されていますがこの引用では省略しました)

たしかに、データを見る限りでは本川さんのおっしゃるとおりかと思います。しかし、そのデータのおおもとである「アンケートへの回答」において、前述の自国評価に出ているような日本人の「謙虚さ」は影響していないでしょうか。つまり、日本人は、ストレスがあっても「それほどでもない」というように控えめに回答する傾向はないでしょうか。

私がこう考えるようになったきっかけとなった調査があります。


日本人はアンケートにも「謙虚」に答えるのでは

世界最大のオンライン旅行会社、Expedia Inc.の調査結果です(本書で紹介されているデータではありません)。

http://cdn2.mynvwm.com/wp-content/uploads/2013/12/184.jpg
引用元:日本の有休消化率、6年連続で最下位!「有給休暇・国際比較調査」-エクスペディア調べ|「マイナビウーマン」
これによると、日本人の有給休暇取得率は13カ国中最低ですが・・・

http://cdn2.mynvwm.com/wp-content/uploads/2013/12/331.jpg
有給休暇取得日数の不満足度は下から5番目なのです。一方、フランス人は有給消化率100%でも不満足度1位。

日本人は疲れにくいから有給取得率が低くても不満を感じにくく、フランス人は疲れやすいから有給取得率が100%でも満足を感じないのでしょうか。私は、そうではなく、日本人は「不満があっても不平を言わない傾向が強い」のではないかなと思っています。

なので、前述の「日本人は仕事ストレスが少ない」等のグラフが示しているのは、日本人が「仕事のストレスは、特段、大きくはなく、仕事の疲れもあまり感ぜず、また『うつ』になる人も少な」いのではなく、持ち前の「謙虚」さから「ストレスや疲れがあってもそれを表に出さず(アンケートにも書かず)うつになっても病院に行かないことが多い」ということなのではないかなと推測しています。だとすると、日本が「長時間労働の国であり、自殺率の高い国である」というデータともすんなりリンクしますし。



本書は、ここに引用したものの他にも多くの統計データを用い、綿密な考察を行っています。たとえば、日本人の疲れにくさの理由として「米に依存しながら暮らすとすると量的にはかなり多く摂取する必要がある。このためアジアの米食民族は摂取したカロリー消費のため、ともかく疲れを知らず動き回る修正があるとされる」と、栄養生理学の観点も紹介しているのです。このように、データだけでなく考察も興味深いものになっています。私は上に本書と異なる見解を示しましたが、それは私が本書の価値に疑問を呈しているのではなく、このような見解を導くきっかけになったという点でむしろ私にとって価値が高かったと感じている、いうことを述べておきます。



その他、本書で特に興味深かったポイントを以下に記しておきます。

日本の評判、英米の客観的視点

日本の評価の推移

前掲の本川さんのサイトから「世界は日本をどう見ているか」を見てみます。同じくBBC調査をもとにしたグラフです。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images2/8015.gif
引用元:図録▽評判のいい国・悪い国の推移

これを見ると、日本は2012年まで世界の中で「プラスの影響を与えている」と見られていたものの、2013年からやや順位を下げていることがわかります。2012年以降、世界は日本の何を見て評価を下げたのでしょうか。個人的にいくつか思い浮かぶことがありますが、根拠がないのでここでは控えておきます。まあ、それでも比較的「評判のいい国」であることには変わりないですが。

グラフの元になっているレポートは以下です(PDF・英語)。

英米の傾向

このエントリで最初に引用した「世界評価と自国評価の違い」のグラフについての本川さんのコメントを引用します。

世界に「悪い影響」を与えていると自国に対して思っている者が最も多い国はどこだろうと目を凝らして数字を見てみると、パキスタン人を除くと、実は、米国人・英国人である。英米人の23%は自国がマイナスの影響を世界に与えていると自覚しているのだ。ここらが英米系の強さなのであろう。

私も同感です。ちなみにグラフからは、英米が自国のマイナスの影響だけでなくプラスの影響も認識していることが読み取れます(パキスタンとはそこが違う)。それだけ自国の影響力に自覚的であり、自国を客観的に見られているということなのだと思います。それにしても、パキスタンのこの自己評価の低さはどうしてなのでしょう。


自殺率

戦後最高レベル?

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引用元:図録▽主要国の自殺率長期推移(1901〜)
日本の自殺率は98年に急増し戦後最高レベルになったというのは割と知られていますが、実はそれは戦後二度目の現象であることを本書で知りました。

年齢別自殺率

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2760.gif
引用元:図録▽年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較
高齢者層の低下、2000年前後の中高年層の増加と低下、近年の若年層の増加が目立ちます。
この理由を本川さんは次のように考察しています。興味深いです。

  • 高齢者層の低下 ←(過去に比べると)社会保障が充実してきたことと高齢者の投票率の高さから高齢者向けの政策が行われていることから
  • 2000年前後の中高年層の増加と低下 ← 不況により自殺が増加したが、その後中高年の既得権益が守られる方向に進んだため低下
  • 若年層の増加 ← 中高年層の既得権益がより守られるようになったしわ寄せが若者に


関連メモ

日本人の特徴?


自殺率


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