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日本人にとって難しい言語・外国人にとっての日本語の難易度

日本人(正確には「日本語話者」)にとって難しい言語とはなんでしょうか。

逆に、外国人(外国語話者)にとって日本語は難しい言語なのでしょうか。

以上の疑問について、井上史雄さんの「日本語の値段」という本を中心にまとめました。


日本語話者にとって難しい言語

日本語話者にとっての外国語の相対的難易度(大学書林)は以下のとおりだそうです。

  • 易しい:朝鮮語*1 トルコ語 インドネシア語 スワヒリ語等
  • 少し難しい:イタリア語 スペイン語 ベトナム語 中国語等
  • 難しい:フランス語 ドイツ語 ギリシャ語 チェコ語等
  • 大変難しい:アラビア語 ヒンディ語 ロシア語 英語(英語はネイティブなみの能力が要求されやすいためこの難易度。ことばのしくみとしては易しい。)


ふむ。すべての言語の概要を私が知っているわけではありませんが、納得できる気がします。

意外なのは「易しい」にトルコ語・インドネシア語・スワヒリ語が入っていること。大学の第二外国語の中でも易しいと評判だったスペイン語(フランス語のような表記と発音の差が少なく、ドイツ語のような分離動詞などもないから)や、そのスペイン語に似ているらしいイタリア語より易しいのか。

アラビア語については、表記からして難しそうですが、本書にこんな話もあります。

アラビア語には、音声学の本に世界一難しいと書かれた母音がある。「ドシラソファミレド・・・と音程を下げていって、自分のできる音よりさらに低い音を出して初めて出る(論理的には発音不可)」というもの。アラビア語を話す子どもは、この発音ができなくてもとがめられない。

どんな発音なんだ・・・

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外国人にとっての日本語の難易度

次は、外国人にとって日本語はどれくらい難しいのか、について。外国人といってもいろんな言語の話者がいますが、ここでは英語話者にとっての日本語の難しさについて調べてみます。

英語話者にとっての外国語の相対的難易度(千野 1987年)

  • 易しい:ドイツ語・フランス語などヨーロッパの言語、スワヒリ語等
  • 少し難しい:ギリシャ語 インドネシア語等
  • 難しい:ロシア語 チェコ語 ヘブライ語 トルコ語等
  • 大変難しい:アラビア語 中国語 日本語 朝鮮語


当然ながら、「日本語話者にとっての難易度」とほぼ逆になっていますね。日本語は英語話者にとって「大変難しい」。

そして、日本語話者と英語話者の両方にとって「大変難しい」のはアラビア語のみ。やはり日本語とも英語とも発音・表記・文法の点で違いがありすぎるということでしょうか。それだけユニークでかつ話者が多い言語なのですね。

また、インドネシア語は両言語から見ても「易しい」か「少し難しい」となっており、習得しやすい言語なのかもしれません。

アメリカ国務省の調査結果

他の調査結果はどうでしょうか。アメリカで、外交官などの専門職を養成する国務省機関である外務職員局(FSI: Foreign Service Institute)が英語を母語とする者が習得するのにかかる期間を元に各言語の習得難易度をまとめています。
f:id:yositeru:20180128081544g:plain
Language Learning Difficulty for English Speakers(すでにサイトが存在しないので、アーカイブサイト・WayBackMachineへのリンクです。2007年。)


こちらでも、「例外的に難しい」という最高難易度カテゴリーに日本語が入っています。同カテゴリーには、他にもアラビア語、広東語、中国語、朝鮮語が。

そして「ヨーロッパ言語ではないが比較的習得しやすいカテゴリー」にインドネシア語、マレーシア語、スワヒリ語が入っています。上記の千野氏の研究結果とほぼ同じですね。

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日本語の絶対的難易度

ちなみに、本書の著者・井上氏は、日本語の絶対的難易度については次のようにお考えです。

  • 日本語の難易度は、日常会話だけなら中程度であろう。
  • 難しいのは表記と敬語であるが、敬語の間違いには日本人自身も比較的寛容である。
  • 基礎部分だけなら比較的早く身につく。母音も5つしかないし発音も易しい。

私自身も、日本語は外国の人にとって難しいんじゃないかなとなんとなく思っていたのですが、たしかにその理由は「表記と敬語」にあるかも。

あとは助詞、つまり「てにをは」かなあ。

どれも今、自分の子どもがトライ&エラーを何度も繰り返しているのを目の当たりにしているのでそのように感じている次第です。



関連メモ

英語以外の外国語の人気がどう変わっていったか。日韓日中関係の影響は。


西洋人と東洋人のもののとらえ方が違う様子を複数の実験で確認し、その理由を推察した本。


「幼児は与えられる言語データが不完全でも完全な文法能力を生み出せる。これはなぜか?」「読字障害者の割合が日本より英語圏で多い理由について」など。


アマゾン奥地で発見された「これまでの言語理論を揺るがす言語」について。


長崎方言と「日本人のルーツ」のかかわり。


興味深かった本の一覧と感想ぺージへのリンク。

*1:朝鮮語、韓国語、ハングルなどいくつかの呼称がありますが、日本トップクラスの外国語研究・教育機関である東京外国語大学の言語名表記が「朝鮮語」のため、このメモではそれで統一します。


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