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市井の人々の暮らしに異物が投げ込まれると - Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選

ふと手に取ったきっかけは、翻訳が村上春樹さんだったこと。実際、翻訳であることを忘れるくらいにこなれた日本語はこの短編集の大きな魅力のひとつです。

しかしもちろん、この作品の素晴らしさの一番の価値は別にあります。

市井の人々の暮らし。そこに異物が投げ込まれる。そして哀しみ、あたたかみ、あるいはそのどれでもないものが生まれる。物語とは単純化すればそういうものですが、この本に収録されている短編では、それらの「暮らし」「異物」「生まれるもの」すべてに確固たる存在感があり、地に足がついている。そして、読み終わった後には忘れられない「何か」を残していく。

私自身の心身が「きつい」ときに読んだのですが、いわゆる癒されるような話が少ないにもかかわらず、滋養のあるあたたかいスープを飲んだときのような充実した読後感を得ることができました。

中でも、すでに何度か読み返すほど惹かれたのが次の2作品です。

  • 「ささやかだけれど、役に立つこと」 少年は8歳になる誕生日、車にぶつかった。けがもなく自分で家に帰った後、目を覚まさなくなった。両親は狼狽しながらもなんとかして希望を保ち続けようとするが、次第に絶望の色が濃くなっていく。そしてその後、家にかかってくるようになった嫌がらせの電話の主と・・・
  • 「足もとに流れる深い川」 夫は友人たちと山へ釣りに行った。そこで女性の死体を発見したが、夫たちは通報より釣りを優先しそこで数日を過ごした。妻はそのことを知ってから、夫に対して、そして亡くなっていた女性に対する感情を制御するのが難しくなってゆく・・・


ちなみに、上に挙げた2作品には別バージョンがあり、特に「ささやかだけれど、役に立つこと」は途中まで話としては同じなのに読後感は180度異なります(タイトルも「風呂」に変わっています)。この2作品の別バージョンが収録された短編集「愛について語るときに我々の語ること」も素晴らしかった。

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