庭を歩いてメモをとる

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2017年の収穫:本・まんが・映画編

(2018年1月6日、映画「くすぐり」を追加)

今年読んで特におもしろく感じた本・まんが・映画です。

本・まんが

ピエール・ブルデュー「ディスタンクシオン」+石井洋二郎「差異と欲望」

いわゆる「お金持ちの趣味」「教養のある人の趣味」と「そうでない人の趣味」のリストと、そういうものは親から子に伝わること、果ては「趣味は何のためにあるのか」まで、多くの人がなんとなく感じていることを膨大なアンケートにより可視化させた労作。そしてその解説書。

ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」

この本そのものもかなり興味深かったですが、これまでに読んだ他の人類史・遺伝・文化人類学の本合計7冊と比較してみることで面白さが更に増しました。

小熊英二「私たちはどこへ行こうとしているのか」

時評集。小熊さんは膨大な文献を調査整理してそれを読みやすくまとめることで知られていますが、それと同じくらいに、私はこの方の「独自の視点」をいつも参考にしています。このメモでは、なぜ日本でだけまんが産業が発展したのか、アメリカ・イギリスが自由化に価値を置いていない理由、なぜ日本の労働者の待遇が悪化したのか、について。

柳本光晴「響~小説家になる方法~」

突然現れた高校生天才小説家の話。なんですが、そんなありきたりな設定からは想像もつかないほど読ませます。これはひとえに主人公・鮎喰響の描き方につきるのでしょう。痛快なんですよね、圧倒的な才能って。

どんなに読みたくても読めない本、つまり劇中の架空の作品の中で、今までで一番読みたくて読みたくてもどかしかったのは「バクマン」における新妻エイジのまんがでした。彼も若き天才まんが家です。しかし鮎喰響の小説はそれ以上に読みたくてしょうがないです。かなわぬ夢ですが。



塩田武士「罪の声」

「グリコ森永事件」の「真実」をあぶり出したと話題の小説。

たしかに、この作品を読む限りその「推測」に破綻はないように感じました。事件当時私は中学生でしたが、その時なとなく感じていた「なんで大人(江崎グリコ社長)をわざわざ誘拐したのか」「警察の偉い人が焼身自殺したってことはよっぽどの理由が警察側にもあるのでは」「当初は犯人側もやる気まんまん用意周到な感じだったけど後半やる気がなくなってきた気がする」というような疑問と感覚について「解答」があって感心。あと、最大の疑問である「結局犯人は何がしたかったのか」についてももちろん。

けれど、この作品のおもしろさはそういう「推測の見事さ」だけではありません。まずは単純にミステリーとしてのおもしろさ。犯行に使われた子どもの録音音声を偶然耳にし、それが自分の子どものときの声であることを知った京都の仕立屋の男性と新聞社で今ひとつうだつがあがらない中堅男性記者、二人それぞれの視点で物語が進みそれが交錯していく構成には興奮させられました。

そして著者の方がいろんな場でおっしゃっているように、この事件は犯行に子どもが巻き込まれている「残虐な」事件であるということを、幼い子どもをもつ親の視点で捉えていること。これが一貫していて、作品をより骨太なものにしていると感じました。

今年一番「睡眠時間を削られた」本です。


映画

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

台湾で1960年代に起こった実話をもとにした80年代の映画。ものすごく簡単にいうと中学生不良グループの争いと恋愛の話なのですが、映像のクオリティ、特に光の扱い方が「なんで?」と思うほど、どのカットも徹底して美しいのです。「迫力」以外の理由で映画館で観てよかったと心から思えた作品です。



ダンケルク

歴史ものという思い込みで劇場に行ったら、最初の銃弾の音からずっと戦場に投げ込まれたみたいな感覚が続き、まずは感覚面で圧倒されました。知人のおすすめで日本唯一の「本物のIMAX」である大阪エキスポシティで観たというのも大きかったとは思いますが。映像も音声も凄いけども「派手」でも「リアル」でもなくただ本物、という最近どの映画でも感じなかった独特の感覚。

その上「ダンケルクから撤退するイギリス陸軍兵士」「撤退を成功させるためドイツ空軍と対峙するイギリス空軍飛行士」「撤退兵を乗せるため自分の船に乗りイギリスからダンケルクまで向かう一般人」の3視点同時進行なのにややこしくなくそれぞれの世界にすっと入っていけた「つくり」にも感心(観終わってから気づいたことですが)。

そして2回目は普通のIMAXで観て、その時も「戦場に投げ込まれたみたいな感覚」に興奮しましたが、改めて感じたのは「イギリスはずるいな」と。世界の歴史の中でさんざん問題を起こしてきた彼らですが、彼らにこんな美しく誇り高い「負け戦」の物語があるなんて。それがこんな極上の映画になるなんて。まあどんな国にも美しい物語も見にくい物語もあるのでしょうが、イギリスは振れ幅が大きいなあと、改めて感じたわけです。

その後、この作品をもっと何度も観ておられる方々お二人とこの映画のことを話し合うためにお会いしたのですが、話題が次から次へと尽きることがありませんでした(楽しかった!)。それくらいたくさんのものが凝縮されている、引出がおびただしい映画でもありました。



きっと、うまくいく

インドのエリート工科大学の「3バカ」が引き起こす学園コメディと思いきや、インドの社会問題を目の当たりにさせ、さらに「10年後誰が一番成功しているか」の賭けの結果に鮮やかなプロットが冴える、実に盛りだくさんのエンターテインメントでした。

取引先のインド人の方にご紹介いただいたのですが、インドを代表する映画作品としても、現代インド社会のひとつの「紹介」としても、おそらく今の世の中で最適なものとして選んでいただいたのかな、なんて感じています。



くすぐり

ニュージーランドのテレビ記者が、奇妙なネット動画を発見しました。「くすぐり我慢大会」。若い男性がくすぐられ、笑いながら耐えている。

そんなたわいもない内容でしたが、この大会には、不思議なほど潤沢な予算がかけられていました。会場のロスまでの飛行機代や報酬までついているのです。

興味を持った記者が主催者に取材を申し込むと「恥を知れゲイ野郎」などと記者を同性愛者と決めつけた異常に攻撃的な反応が返ってきました。

記者は逆にこの大会に一層関心を持ち、取材を続けました。すると、くすぐり我慢大会の動画を撮られた男性たちが、その後動画を勤務先や学校の関係者にばらまかれるなどして脅迫を受けていたことが判明。中にはこれで職を失った人までいます。

そんな中、主催者の代理人が記者を訴訟すると宣言、アメリカからニュージーランドまでやってきました。記者は今度は自分がアメリカに飛び、主催者に迫ります。

・・・そんな内容のドキュメンタリー。主催者はなぜこんなことをしているのか?明確な答えは示されていないものの、取材の経過からそれを推測することはできます。というか、はっきり見えてくる。

人間の心の傷と「防衛本能」に経済力が合わさり暴走するとどのようなことになるのか。その恐ろしい実例をスリルに満ちた流れで見せてくれる作品です。

この作品はNetflix限定配信です。


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