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原作アレンジ、人形操演、そして大人の世界の不条理−NHK「シャーロックホームズ」(パペットエンターテインメント)

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  • Eテレで2月22日(日)・26日(木)から再放送開始(毎週日曜日17:30〜17:50、または毎週木曜日24:00〜24:20)
  • 公式サイト


NHKのパペットエンターテインメント「シャーロックホームズ」。最初に学園ものだと聞いたときは「ヤング・シャーロック」のようなホームズやワトソンが学生の頃の話だと勘違いしていたのですが、実際はそういう「原作の過去の話」ではなく「原作をそのまま学園ものにした」ものです。

となると、一応ホームズ全話を読んだファンとしては(シャーロッキアンやホームジアンを名乗れるほど熱心ではないですが)、どう原作をアレンジしてくれてるのかな・・・というところに期待してしまいます。

でも、観ていくうち、このシリーズの魅力は他にもあるということがわかってきました。



原作のアレンジ

もちろん、三谷幸喜さん(本作に関するインタビューはこちら)による原作アレンジも期待通り見事なものでした。初回からホームズの成績が「文学、哲学、天文学に至っては最低レベル!」なんて台詞は出てくるし、モリアーティは教頭、レストレードは生活委員なんて「配役」もなるほどって感じだし。それに「『緋色の研究』より」とあるのに、石膏像は壊れるわベッポは出てくるわで「六つのナポレオン像」も混じっている展開(後にもっとすごいミックスも複数回登場)。

「花婿失踪事件」や「犯人は二人」に出てくる最低な人物・エピソードが、ストーリーの根っこはそのままに「心あたたまる話」になっているところなどは舌を巻きました。

「ウィステリア荘」の「できる警部」ベインズがここではホームズのライバルになっていたり、兄マイクロフトが原作とはまったく異なる面を見せるなど、ただ原作に忠実なだけではなく、原作を十分理解した上でのプラスアルファもうまい具合にはまっています。

また、原作から直接のネタではないのですが、ある回では「ピルトダウン人の化石」が登場したり、「赤毛クラブ」本編のあとのクイズコーナーで回答の出典がブリタニカ百科事典*1のであることがわざわざ表示されたりなど、あらゆるタイミングでファンをニヤリとさせ続けてくれたところもさすが。



人形操演

そんな芸の細かいアレンジとともに驚かされたのが人形操演です。その丁寧かつ大胆な動きだけでなく、変わらないはずの人形の表情が変わるんです。

第1回で、明るく細かいことに頓着しなさそうなワトソンが、人生の夢だったラグビーをあきらめたことについて語っているときに重い表情に変わったのを見て心を打たれて以来、魔術のような人形の動きに魅了されっぱなしでした。

幸運にもNHKスタジオパークで操演を目の当たりにできたときも、ホームズやワトソンの生命を感じたほどです。

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大人たちの不条理を子どもたちに示す

そのスタジオパークのホームズブース、来場者は老若男女幅広いものの、やはり小学生くらいの子どもたちが中心です。小学校2年生である私の長男も、今ではすっかりこのシリーズのファンです。

この作品が本当に優れており、かつ志が高いと感じたところは、その年代の子どもたちに、大人たちの不条理を隠さずに示したところです。

「困った校長先生の冒険(『ボヘミアの醜聞』より)」では不倫。他のエピソードでもストーキング、所属による差別、教師から生徒への一方的な恋愛など、大人の世界にある、できれば子どもに見せたくないものを物語の中に絶妙のバランスで織り込んでいたのです。

絶妙のバランスとは、それらを子どもたちが受け止められるような演出のことです。脚本や映像だけでなく、声優や人形操演、音楽(非常に幅広い音楽ジャンルを縦横無尽に行き来してて楽しめました)などの総力で子どもたちに届け、丁寧に手渡している。感心しました。

最終話では、登場人物の一人が「学校は、大人のだめなところも見せる場だ」というような言葉を語ります。まさに、それこそがこのシリーズのテーマだったのではないかと感じる次第です。



原作を上手にアレンジするだけでもなかなか難しい(熱心なファンの目もたくさんあるし)シャーロック・ホームズシリーズに、人形の魅力と「大人たちの不条理を子どもたちに示す」という新しい役割を吹き込んだパペットエンターテインメント「シャーロック・ホームズ」。たった数ヶ月で終了ってもったいないと思っていたのですが、公式サイトを見る限り続編がありそうな雰囲気満載なので、長男と心待ちにしている毎日です。

これ海外展開もできるんじゃないかなあ。作中の文字は全部英語だし、何より人形のデザインは世界のどの国でも違和感なく受け入れられそうだし・・・

*1:原作「赤毛連盟」にブリタニカ百科事典が登場します。


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