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そこには、予想外の生き生きとした表情があった-「首相官邸の前で」

「首相官邸の前で」公式サイト



小熊英二さんの本は、これまでそのほとんどを読んできました。読んでいて面白い上に、膨大な文献をもとに今までに知られていなかった新たな視点を提供してくれるから。

その小熊さん初の映像作品。見ないわけにはいきません。しかも、大阪ではこの日の上映後、小熊さんがSkypeで観客との対話に応じてくれるというのです。というわけで同じく小熊さんの本をよく読んでいる友人と一緒に映画館シアターセブン(大阪・十三)へ。40程度の客席がほぼ満席。年齢層は60代以上が多かったかな。


映画について

もし一言で説明しろと言われれば「福島の原発事故以降の反原発デモについてのドキュメンタリー」となってしまいますが、それだけではまったく片付けられない内容。

まず人々の表情がよかった。怒りと悲しみもあるけど、それだけではないし、それが主役でもなかった。ではどうなのかというと「生き生きしている」という感覚が一番ぴったりきます。

私自身、デモの意義や重要性は理解しているつもりですが、デモに参加している人々の一部に違和感を感じたことがあって(後述)、この映画は「小熊さんがどんな作品をつくったのかは気になるが、内容については距離を置いて観よう」と思って映画館に足を運んだくらい。それでも、そう感じたのです。

そして、これは小熊監督も書いていたことだけど、「事故→人々が徐々に声をあげる→拡大する→政治家に伝わる→約2年間だけとはいえ本当に日本中の原発が稼働しなくなった」という流れがいかに希有なことか。同じ時代に同じ国にいたのに、このことに映画を観るまでほとんど気づかなかった。私のアンテナが低かっただけのことかもしれませんが、小熊さんにはまたしても著作と同様「新たな視点」を提供してもらいました。


トークシェア、小熊監督との質疑

この映画には、上映後に観客同士で映画について語り合う(トークシェア)と上映料が割引になる制度があるそうです。小熊監督のアイデアらしい。たしかに、この映画は観た後に感想を述べ合ったりディスカッションしたりするなどの「行動」が似合うし、また意義があると思います。

私は隣にいらした同年代(か少し若い?)男性と意見交換。その方はすでにデモにも何度も参加されているとのことで、その動機や感覚を伺い賞賛しつつ、私は一度だけデモに参加し、ちょっと違和感があったことを話しました。

その後、小熊監督とのSkype質疑が始まりました。数名の方が質問、小熊さんは丁寧に回答。私は最後の一人でした(質問者は、挙手した人の中から、劇場の係の方がピックアップしていました。)。

クローズドな環境でのやりとりなので小熊さんの回答について詳細は書きませんが、私が小熊さんに伝え質問したのは以下。

  • 映画制作への感謝。特に人々の表情が生き生きしていて心をうたれた。貴重な瞬間を記録しまとめてくださって感謝します。
  • 質問。私は自民党が集団的自衛権解釈についての閣議決定を行ったとき、自民党の大阪支部連前の集会に参加した。生まれて初めての自主的なデモ(抗議集会)への参加だった。小熊さんの「社会を変えるには」を拝読した影響も大きい。しかし私は少し失望した。スピーチなどはそれぞれがよい内容を言っているのに、それを拡声器で遮るような人たちもいた。本当に相手(このときの場合は自民党)に言葉を伝える気があるのかと思った。
  • 一方で、この映画では、そういうこともあったのかもしれないが、最終的には当時の首相と対話し最終的には約2年間の原発停止という大きな達成があった。どのようにして私の見た問題(協力せず自分の言いたいことだけ言う状態)を克服したのか。教えていただきたい。

小熊さんの回答:

  • 反原発デモでそういったことがなかったわけではない。克服していかなければならない問題。
  • しかし最近のデモでは、例えば、ゴミがほとんど落ちていない。変わってきているのだ(その他例を挙げてのご説明あり)。
  • これで答えになっていますでしょうか?

応えにくいであろう内容に丁寧に対応していただいたことにお礼を申し上げました。

個人的には、ある種の憧れである小熊さんとSkypeとはいえ言葉を交わせたこと自体が感無量だったわけですが。

小熊さんは次にどんな仕事をしてくれるのか?本当に目が離せない人です。


(参考)これまでの小熊本についてのメモ


















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