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日本人のルーツ多様性は世界でも珍しい?長崎の重要性とは?

書名通り、DNA分析で日本人のルーツを探り、そのユニークさを明らかにした本です。まあどの民族でも自分のところは世界的にユニークだと考えるのが一般的なんでしょうが、それを客観的なデータで示してくれる本とも言えそうです。

世界でも珍しい3グループ共存地域・日本

人類の長期スパンの追跡にはY染色体分析が適しています。これにより分類できるヒトの系統は大きく分けてAからRの18系統。さらにこれらは以下の5つのグループに分けられます。

  • A:アフリカに固有
  • B:アフリカに固有
  • C:出アフリカの第1グループ
  • D,E:出アフリカの第2グループ
  • F〜R系統:出アフリカの第3グループ

日本列島にはこのうちC,D,N,O系統、つまり出アフリカ3グループすべてが認められます。世界の他地域では2グループしか認められないのが普通で、3グループすべてが残っているのは珍しいのだそうです。よく、日本は民族的同質性が高いという話を聞きますし、実際ヨーロッパやアメリカを旅行して日本に帰ってくるとぱっと見同じ民族の人が圧倒的に多いのに今さらながらに驚いたりします(さらに90年代前半までは、ほとんどの人の髪の毛が黒いことも、改めて見るとインパクト大でした)。しかしその見た目とは裏腹に、ルーツはかなり多岐にわたっていたようです。なぜそうなったのでしょうか。ひとことで言えば、住みやすかったから、というのが本書の回答です。

(要約。以下同じ)気候が人類に適していた。ドングリやトチノミなどの植物やタンパク源となる動物・魚なども豊富なことも人間が生きていきやすい環境だった。なおかつ、新石器時代の雑穀農耕も導入しやすかった。このことから、古代の低い人口密度のもとでは大きな争いなしで各系統の人類が共存可能だった。事実、弥生時代に東アジアの混乱から難民化して日本に渡ってきた人たちは少人数で数回にわたりやってきたが、先住系の人々に技術を伝搬しつつ共存してきたことが明らかになっている。

銃・病原菌・鉄」で有名なジャレド・ダイアモンド博士の言説でも、日本列島は世界的に見ても気候・天然食糧に恵まれている地域、というものがあったと思います。日本の他には、アメリカ太平洋岸北部・カナダ・ブリティッシュコロンビア州沿岸が含まれていたような。何の本に書かれていたかも含め記憶があいまいですが。

さて、具体的にいつどこから人々が日本にやってきたのか。それは次の通りです。


各ヒト系統の歴史と分布

簡単にまとめると次のようになります。(パーセンテージは各地域における分布率という理解ですが、足して100を超えるものが散見されますので、よしてるの引用または解釈違いかもしれません。申し訳ありません。)

時代 系統名 日本へやってきた経緯 もたらした文化 世界分布 日本分布
旧石器時代 C3・Q系統 シベリアから北海道へ   シベリア・中央アジアに多い アイヌ13%
新石器時代 D2系統 朝鮮半島経由で九州へ 縄文文化形成 日本とチベット・ビルマのみ アイヌ88% 日本四島26〜48% 沖縄39% 八重山4%
新石器時代 C1系統 ルート不明で南九州へ 貝文文化形成 シベリア・東北アジア(トゥングース系27〜91%、モンゴル系52〜84%) アイヌ13% 九州8%
新石器時代 N1系統     ヨーロッパ北西部(ウラル系37〜61% バルト系32〜47%) 日本では少数だが確実に存在
  O2b系統 黄河文明に壊滅させられた長江文明(BC473の呉の滅亡等で日本に渡来?) 日本の水稲農耕拡大の時期と一致 朝鮮51% アイヌ0% 東京26% 沖縄30% 八重山67%
  O3系統     漢民族66% 朝鮮38% 台湾60% ヴェトナム41% アイヌ0% 青森15% 東京14% 九州26%

古代歴史書において、九州から東北南部まで「ツチグモ」と呼ばれる先住民についての記載がありますが、これはD2系統ヒト集団であった可能性がかなりの確実さで推定できるそうです。


言語

言語に関しても興味深い調査結果があったのでメモします。

沖縄に行って以来、私が普段使っている日本語(関西弁)と沖縄の言葉って本当に別言語と言っていいくらい違うやんなあと感じていたのですが、実はそうでもないようです。

  • 日本語と琉球語 動詞に単数複数の区別がない、hやpの音声対応がある(花は日本語でhana、琉球語でhanaまたはpana)
  • アイヌ語 動詞に単数複数の区別がある、hやpの音声対応が日本語や琉球語との間にない(花はnonno)。なお、世界的に見てもアイヌ語は孤立言語。

(上記以外にもいろんな文法上の共通点(または差異)が解説されていましたが、私の勉強不足で理解できなかったのでメモしていません。)

あと、これはやっぱりミステリーなんだなと思ったのが、松本清張「砂の器」で知られるこれ。

東北語や出雲語に残る中舌母音は、上代奈良語や現代西日本語にも見られないし、アイヌ語にも見られない。どこに由来するかがはっきりしない。

なお、日本語そのものも、世界の言語の中ではユニークな存在とのこと。他にはバスク語もそう言われていますね。

日本語祖語との同系統の言語は世界中探しても見つかっていない。D2系遺伝子が日本とチベット・ビルマ系にしかないことを考えると、チベット・ビルマ祖語と日本語の関連についての研究が待たれる。


西九州(長崎)の重要性

長崎のどういう点が重要なのでしょうか。まとめると、縄文文化や先住系集団の要素を色濃く残している点で他地域に比べ特徴があるようです。

縄文文化の担い手であるD2系統集団は、朝鮮半島を経て長崎に到達した可能性が高い。長崎は、明治20年の時点でも水稲作付け比率が39%に過ぎず、畑作が中心。縄文文化が継続していたとも考えられる。

これは、長崎は山が多いから水田を作りにくいからなんじゃないかなとも思ったのですが(長崎県全域で山が多いのかどうかは調べていません)、他にもっと具体的なデータがありました。

成人T細胞白血病ウイルスに感染するヒト(キャリア)の割合は、日本の地域により大幅に異なる。沖縄本島19%、長崎31-26%、鹿児島32-24%、福岡市12%、島根県隠岐諸島18%、広島市3%、紀伊半島12%、神戸市・京都市・金沢市・千葉房総半島・仙台市0%、山形県飛島(離島)17%、アイヌ45%。このウイルスキャリアはD2系統のうち先住系集団の生き残りである可能性が高い。

これをそのまま受け止めると、先住系集団の末裔と考えられる人々は、アイヌに次いで長崎・鹿児島に多いということになりますね。この他にも、言語面での指摘もありました。

長崎語は下二段活用、敬語法-rasu、形容詞語尾-saなど、他の日本語体系で消滅した語法で、かつ万葉時代の上代奈良語に見られた特徴を残しており、日本語の中で最も古いと見られている。なお、九州は言語的差異が大きいが、これは言語生成の地の特徴でもあるので、九州が日本語形成の地との推測が成り立つ。

長崎は、その位置からしてそうなんですが、日本列島へのヒト集団流入の玄関口であり、それに応じた歴史を持っている地域なのかもしれません。



以上、日本人のルーツが、私がこれまで勝手に想像していた「もともと縄文人がいたところに大陸から弥生人がやってきた」などという単純な話ではすまされない奥深いものであることを知りました。もうひとつ感じたことは、なるほど日本人のルーツはかなりユニークですが、同じようにユニークなルーツを持つ人々は世界の他地域にもいるんだろうな、それはどんなものなのだろう、という興味です。こういうかたちで視野を広げてくれる本にはいつも感謝しています。


関連メモ

「日本人」論


日本人の意識調査


古代日本


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