庭を歩いてメモをとる

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かわぐちかいじ・藤井 哲夫「僕はビートルズ」を読み終えて

(ネタバレありです)




最初に5巻を一気に読んで、そのテーマ設定の見事さに驚き、ビートルズファンとして多少複雑な思いも持ちつつ楽しませてもらい、これからどうなるかでこの作品の価値が決まるように感じたこのまんが。10巻をもって完結しましたが、個人的には十分に「価値あり」だと感じています。ビートルズのコピーバンドがビートルズデビュー前にタイムスリップしてビートルズの曲を発表する・・・という根幹のストーリーのおもしろさ(ファンの人によってはふざけているように感じる方もいらっしゃるとは思いますが)だけのまんがではなかったからです。


まず第一に「音楽は創造だけで成り立っているわけじゃない」というテーマ。コピーバンドFAB4たちがロイヤル・アルバート・ホールでビートルズの曲を演奏するときのシーンを筆頭に、いろんな箇所で「コピーすることの意義とは」「コピーバンドのアイデンティティとは」という問いに、ひとつの答え、というか考え方を提示しているところ。ここをしっかり描きあげることで、作品の深みは数段増したと思います。

もうひとつは、やはりビートルズへの深い愛情が感じられるところ。一番印象深かったのは、いったんFAB4の曲(実は自分たちが未来につくる曲)を聴いて引きこもったビートルズがそれを上回る曲をひっさげて帰ってくるところ。そうそう、ビートルズはそんなヤワな奴らじゃないんだ、「ペット・サウンズ」を聴いた彼らは引きこもったか?って。

もうひとつは、これはTwitterである方もお書きでしたが、ショウが少年のころお父さんのビートルズのCDをきっかけに彼らが「宇宙」になった・・・という出会いの場面。自分も含め、同じような経験をした人たちが世界中たくさんの世代にいるんだろうな、作者のお二人もそうなんだろう・・・と胸が熱くなりました。


他にも、日本人の音楽創造コンプレックスの描き方や、全編を通じてFAB4の4人がそれぞれのモデル(ジョンやポール)本人に微妙にリンクしているところ(ポール役のマコトが最初にバンドをやめて酪農の仕事につく等)など、この作品を読了された方と飲みながら話したいポイントはたくさんあります。

そもそもそういう、誰かに話したくなる作品、語り合ってみたい作品っていいものですよね。知り合いの方にはこのまんがを読まれた方が何人もいらっしゃいます。その方々とこの作品について話し合うのが今から楽しみです。


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