庭を歩いてメモをとる

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吉野源三郎「君たちはどう生きるか」

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

1937年に出版されて以来長きにわたり、少年少女、いや大人にとっても読むべき本として誉れ高い本書。再読してみました。

タイトルから想像されるような人生読本ではありません。哲学書でもないと思います。東京の中学生コペル君が「おじさん」や級友たちとの関わりの中で、自分が社会の一員であるというのはどういうことかに気づいていく本、と私は解釈しました。


銀座のデパートの屋上から群衆を見る中で、自分を「広い広い世の中の一分子」と感じるに至った経験。

粉ミルクの缶から、牛、牧場、倉庫、汽車、汽船、広告、薬屋のつながりを感じ、世の中があらゆるものを通しあらゆるもの・人とつながっていく「網目の法則」を発見した時の驚き。

ナポレオンの英雄的精神に触れその偉大さを認めながらも、後年多くの人々に惨禍をもたらした点にも触れ、「英雄とか偉人とかいわれている人の中で、本当に尊敬できるのは、人類の進歩に役立った人だけだ。・・・偉人と言われている人の中に、ナポレオンとは全く別な型の人々のあることを君は知るだろう。」とノートに書くおじさんの視点。

どれも、「大人」にとっては特別なものでもなく、当たり前と言っていい感覚かもしれませんが、それらを発見した時の新鮮さ、そして自らを社会の一員として意識することの重要性を思い起こさせてくれるのが本書なのではないかな、と感じた次第です。


コペル君が友人たちを「裏切って」しまい苦悩した後彼らは・・・というような、素朴な学園ものとして読める側面もあるし、ことばや語られている内容の簡明さから見てたしかに少年少女向けといっていいのでしょうが、評判通り大人、特に「社会人」と自称する人(私もそうです)に価値のある気づきを与えてくれる作品だと思います。



ちなみに、内容に関係ないのですが、この本を読んで痛切に感じたことがもう一つあります。出版が1937年で、主人公や級友が中学生ということは、戦争中は20歳前後のはず。出征することになるはずです(もちろんこの本の登場人物は架空の存在ですが、もし実在したとしたら)。いつ生まれたかで大きく運命が変わる可能性があるという現実を想像させられた次第です。



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