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日本の有給休暇取得率が低い制度的な理由とは? - 大竹文雄「競争と公平感」

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

さすが、いろんなところで評判になっているだけあって、興味深い小ネタが読みやすく配置されていますね。さらっと楽しんで読めました。と、こう書くと内容が軽い本のように思われそうですが、豊富なデータと明晰さがうかがえる洞察がまんべんなくちりばめられている質の高い新書だと思います。

ネタが多彩なので、「この本って何の本やったっけ」と感じるのも一度や二度ではなかったですが、基本線はあくまで「市場経済」。その視点で世の中の様々な事象を捉えています。あえて言えば、同じ著者・似たテーマの「日本の幸福度 格差・労働・家族」が「調査報告書」だとしたら、こちらは「読み物」ですね。


日本人が運やコネを重視するようになった理由

日本人が運やコネを重視する価値観を持つようになったのは、最近である可能性が高い。世界価値観調査によると、日本人で運やコネを大事だと答えた人は、90年で25%、95年で20%だったが、2005年には41%に急増している。なぜこのような変化が生じたのだろうか。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のギウリアーノ教授とIMFのスピリンバーゴ氏の研究によると、18歳から25歳の頃不況を経験すると「人生の成功は努力よりも運による」と思い、「政府による再配分を支持する」が、「公的な機関に対する信頼を持たない」という傾向がある。

本や音楽でもそれに最初に接した年齢によって受け止め方や影響され度が異なるのだろうなあという感覚は大いにあります。ならば不況をどの年齢で経験するかで価値観が変わるのも当然という気がします。なので、この研究結果そのものは驚きでもなんでもありません。興味深かったのは、そこからわかったことそのものではなくそれを実証したという点です。感覚やイメージでなんとなくわかっていることを研究により明らかにするって労力が大いに伴う営みだと思うのです。ただ、それをもっと実感するためにも、調査方法は簡単でもいいので書いておいてほしかった気もします。


出生児体重と生活習慣病のかかわり

サウサンプトン大学のパーカー教授は、出生時の体重が低いと成人になってから糖尿病、高血圧などの生活習慣病にかかる人の割合が高くなることを示している。胎児期に栄養が少ないと、飢餓状態に備えて体に脂肪を蓄えやすくなるからではないかと言われている。また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブラック教授によると、双子同士での出生児体重が10%違うと将来の所得が1%異なる。

三つ子の魂どころか胎児の環境百まで、といったところでしょうか。1%の差ってどれくらいの意味があるのか、という気もしますが、いずれにしても人生のバタフライエフェクトみたいな話だなあと感じました(たとえの妥当性にちょっと難ありですが)。

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貧困率が統計により異なる理由

日本の貧困率は、統計によって異なっている。厚生労働省の「国民生活基礎調査」は、福祉事務所が調べているため、福祉を受給している世帯の調査の比率が高くなると予想できる。そのため、貧困率は高めに出る。また、総務省の「全国消費実態調査」は、別の調査担当部局が調べている上、答える側が家計簿をつけている必要がある。低所得者と高所得者には家計簿をつけることを嫌って調査を拒否する人が多いことが知られている。したがって、貧困率は低めに出る。

統計の前提を把握しておくことの重要性を教えられます。他にも、フリーターの定義など、言葉は同じなのに定義が異なっていて、同じ日本政府内で違う統計結果が出ているものがありますね。


日本の有給休暇取得率が低い制度的な理由とは

東京大学の水町勇一郎准教授は、日本の有給休暇の取得率が低いのは制度的な問題だという。ヨーロッパでは使用者が労働者の意見・希望を聞いた上で具体的な年休を決定し、それに従って年休が完全に消化されるが、日本では、有給休暇のタイミングを決める権利を労働者が保有しているから、病気など不測の事態のために年休を残しておく傾向がある。

日本の有給休暇取得率がヨーロッパに比べて低い第一の理由がこれだとは思いませんが(理由の一つであるとは思う)、こういう視点があることは学べました。



冒頭に書いたように、本書にはこのような興味深い話が「1話完結」で列挙されていますが、根底に流れる根っこのテーマは副題にもあるように「市場経済はなんだかんだいっても合理的な仕組みだ」というところでしょうか。そのことをことさら強く訴えるのではなく、いろんなネタでテーマを浮かび上がらせるという手法、なかなかだと感じました。


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