庭を歩いてメモをとる

おもしろいことや気になることのメモをとっています。

津田大介+牧村憲一「未来型サバイバル音楽論」

未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか (中公新書ラクレ)

日本での12cmCDアルバム生産金額は、98年の4942億円をピークに、09年には2119億円にまで下落。一方でコンサート動員数は98年に1500万人を切っていたのが09年には2606万人に。そんな状況を耳にするにつれ、そして毎年ペースで音楽に接するチャネルの変化を感じるにつけ(最近では坂本龍一教授のUSコンサートライヴ配信などに代表されるUstreamの一層の浸透、でしょうか)、音楽をとりまく環境はこれからどうなっていくのか、気になっている音楽ファンは多いのではないかと思います。私もその一人です。

この本は、それに対する現時点でのひとつの回答を提示するだけでなく、きちんとこれまでの流れを俯瞰し整理することで、現状の理解を深めてくれるものです。


私の世代は、中学に入ったころ貸しレコード屋が全盛期で、高校時代にCDが普及。その後のMDの盛衰とiPodの進化から、MP3とファイル共有ソフト、iTunes StoreからYouTube、Twitter、Ustreamの登場、上述したCD売り上げの激減まで、音楽に接する経路の変遷をリアルタイムで体験してきています。私はそれらを実体験としてとらえていたわけですが、この本ではそれらを簡潔・客観的に整理することで、新たな視点を提供してくれています。

例えば、CD売り上げの激減については、若者の可処分所得の中で、携帯電話などが占める割合が増加し、音楽にあてる割合が低下したという話はよく聞きますが、DVDの売り上げが99年の302億円から05年の3477億円に拡大しており、その影響もあるのでは、という指摘は新鮮なものでした(私が知らなかっただけ?)。

他にも、今ライヴ市場を支えているのは物販で原価800円のTシャツを4000円で売れる非常に利益率の高い商売になっていることやライヴ会場での限定CDが好調なことなど、今現在の状況についても、興味深いデータ・指摘が多数ありました。音楽著作権の解説やキーワードの注釈も読者に非常にやさしく書かれています。そういった点も含め、私にとっては、この本は音楽をとりまく環境の変遷と現状を客観的かつ興味深く記した一種の「歴史書」でした。

この本の魅力は、そういった「歴史書」部分だけではなく、今後のレーベルのあり方についてなど、音楽ビジネスに関する「提言」部分にもあります。その部分についての感想は省略しますが、そのどちらを読んでも共通して感じたことは、私たち音楽ファンは今ほんとうにおもしろい時代を生きているんだな、ということです。新書ながら読み応えもかなりあり、コストパフォーマンスの高い一冊。


(広告)