庭を歩いてメモをとる

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白川晶・里見桂「マリー・アントワネットの料理人」


マリー・アントワネットの料理人 1 (ジャンプコミックスデラックス)


今までに読んだ料理系まんがの中で一番おもしろかった。

マリー・アントワネットがフランス王家に嫁いできた。連れてきた料理人は田沼意次のもとを飛び出してきた日本人・磯部小次郎。コジローはフランスで料理の勝負に挑む・・・という設定を書くと、まさに悪い意味でのまんが、荒唐無稽もいいところです。しかし中身を読むと、その不自然さはかすみ、料理と歴史に関する怒濤のトリヴィアに巻き込まれあっという間に一冊を読み終えてしまいました。

日本では1600年にすでにジャガイモが入ってきており、18世紀のヨーロッパでも食事の中心となりつつあったが、フランス人はこれを「犬も食わない」と断固拒否していたこと、日本の将軍の前で野鳥を料理する際は血が流れると不吉とされたことから、生きた鳥を血を流さずに調理する手法があったこと、マヨネーズは1756年メノルカ島(町の名前はマオン、マオンのソース=マオン・ネーズ)で生まれた(諸説あり)が、そのメノルカ島は軍事上重要な位置にあるためフランス・スペイン・イギリスの間で争奪戦が繰り広げられていたこと、タルタルステーキの「タルタル」は、タタール人(当時は現代でいう「エキゾチック」程度の意味合いで使われていた)と、フランス語の「生肉」という言葉が発音も綴りも同じであったことからきている・・・など、単行本一冊で凝縮された逸話のフルコースを味わえました。

マリー・アントワネットを「浪費家」としてではなく、「無邪気だが庶民にも目を向けた賢明でもある姫」として描いているところも興味深いです。実際、アントワネットの趣味が乳搾りで子どもと一緒に小麦を育てたりしていたこと、「パンがなければお菓子を」の言葉も、当時のお菓子(ブリオッシュ)はパンよりも安い小麦でつくられており価格は半分だったことを考えると世間知らずの姫の戯言とは言い切れない・・・など彼女の意外な側面も紹介されます。

そんなわけで、特にヨーロッパの歴史と料理に関心のある方にはたまらないと思われるこのまんが、ひとつだけ大きな欠点が。なんと1年に1作しか発表されないのです。単行本1冊に3年。せめて連載を月刊化、いや季刊化でも−−−−ッ どうかご検討を−−−−ッ(ってそれは違うまんが。)


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