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ジェフ・エメリック&ハワード・マッセイ「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」

ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実

遅まきながら読了しました。原書を読んでいましたが、やはり自分の英語力に起因するまどろっこしさに耐えきれず邦訳版に手を出したが最後、後半部分はほぼ徹夜になりました。

この邦訳版タイトルにふさわしい内容の、素晴らしいドキュメンタリーであり、伝記であり、一人のプロフェッショナルの成長の物語でもありました。そして原書タイトルの"Here, There and Everywhere"にしても、それをビートルズに関して語れるごく限られた人による本であることを見事に体現していると思います。

要するに、ビートルズについて書かれた最高の本のひとつであると言えます。特に、ビートルズの音楽を真剣に聴き込んできた人には非常に興味深く読めるに違いありません。josh909さんが、「世界中のビートルズファンの疑問に一人一つ以上の答えを出してくれている本だという気がします。」と書かれていましたが、私も同感です。

私の場合、その最大のものは、「アビイ・ロード」の音でした。ビートルズのアルバムは、彼らの音楽性と録音技術の変化に伴って、それぞれ独特の音で録られていますが、ことに「ラバー・ソウル」と「アビイ・ロード」だけは、個人的にはまったく別種の音に聞こえるのです。残念ながら前者については、ジェフが参加していないので答えは謎のままですが、後者にははっきりとその答えが書かれてあって、感慨深かったです(ジェフは、この「アビイ・ロード」の音をそれほど気に入っていないようですが、私は大好きです)。この他、ビートルズ・サウンドや楽曲についてひっかかっていたいろんな疑問が、この本のおかげで次々に氷解していきました。

こういったサウンドメイキングのドキュメンタリーの面としてだけでもこの本の価値は非常に高いのですが、加えて素晴らしいのが、4人のビートルをはじめとした人物に関する描写です。愛情と客観性という、伝記で非常に重要な要素がこの本には一貫しています。例えば、ジョージ・ハリスンについては、初期のテクニカルな面での稚拙さやバンド内で軽んじられていたことを容赦なく記す一方、後期に大きく成長を遂げた彼には賛辞を惜しみません。また、ジョージ・マーティンについても、今まで彼の手柄だと思われていた数々のサウンドメイキングの偉業が実はジェフによるものだということをまったく自慢げ無く書きつつ、マーティンの残した卓越した業績はしっかり記述し、しかし後期においてはいくぶんビートルズから軽んじられることもあったこともきちんと記載しています。このあたりの人物描写のバランスが見事です。

そして、この本は青年(高校を出てすぐEMIに入った)ジェフが、いきなりビートルズと出会い、そして特に「リボルバー」以降、彼らの音楽的変化とともにプロフェッショナルとして苦悩しながらも成長していく物語としても読め、その点でもとても感銘を受けました。彼はプロとしてビートルズの要求に応え、時にはそれを超えるような仕事を、過酷なプレッシャーのもと創意工夫を凝らして実現していきます。私自身、仕事をジェフのように情熱と工夫を凝らしてできているだろうか・・・と、比べるのにおこがましいのもほどがあるのですが、そのような角度から力をもらえた本でもありました。

以上のように、ビートルズに関する本はいろいろと読んできましたが、これほど「おもしろくてためになる」本は初めてです。そして、これ以上の本はもう出ないだろうな、とも思いました。

最後に、この本を読んで改めて感じたこと。ビートルズは「ホワイトアルバム」のころはもう完全にバンドとしてのまとまりを欠いており、「ペパー」で最高潮に達したチームワークが崩壊していたのは周知の事実であり、かつこの本にはそれが残酷なまでにリアルに記述されているのですが、それでも、個人的には「ホワイトアルバム」はビートルズのキャリア中最高のアルバムのひとつであることには変わりがありません。たしかにメンバー個々人の色が強く出ている作品ではありますが、やはりそこにも「ビートルズ」はいるのです。いったいビートルズというのはどこまで恐ろしいバンドだったのか。この本がここまで「マジック」を明らかにしてくれたのに、ビートルズの「マジック」の謎はまた深まりました。


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