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村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

村上春樹の短編で読んでいないのがいくつかあったので、それを全部読もうと思って手にしたうちの一冊です。

春樹さんの初の短編集。最新短編集の「東京奇譚集」と比べると、やはり深み・手応えにおいては圧倒的に「奇譚集」に軍配があがりますが、一方で「スロウ・ボート」には初期短編集らしいいい意味での軽さ・若々しさがありました。

そんな中で、一番気に入って三度ほど読み返したのが「午後の最後の芝生」です。大学生の「私」は、彼女と旅行に行くために続けていた芝生刈りのアルバイトを、失恋のためにやめることになります。その最後の仕事先の家には、昼間から酒を飲んでいる夫人だけがいました。「私」はいつものように丁寧に芝を刈ります。その後、「私」はその夫人の娘の部屋に案内されます。部屋はまるで娘がそこにいるようなたたずまいですが、娘はいません。

村上春樹小説独特の「きちんとした感」と死の気配。まぶしくなるような夏の情景の描写。それらがふんだんに盛り込まれたこの短編、今後も何度も読み返していくことになると思います。


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