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ポール・ホースト「戦争の経済学」

戦争の経済学

正直に告白すると、私はこの本を飛ばし飛ばし読みました。この本は、大学の経済学部の学生のテキストにもなるように書かれているということで、数式がたくさん出てくるのです。そこを読み飛ばしました。

それでもあきらめず最後まで読み通せたのは、やはり書かれている内容が新鮮だったからです。この本のもつ基本的な問いは「戦争はペイできるものなのか?」。この問いは、戦争を倫理面から考えるのとはまったく異なる新しい視点を設けてくれるでしょう。事実その通りでした。


戦争はペイできるものなのか−結論は、「昔はペイできたこともあるが、今はまず無理。」ポイントは、軍の雇用と軍事産業のあり方です。

戦争して儲かるケースとは?戦争には軍隊と武器が必要。どちらも雇用を産む。したがって経済は活発になる。こういう理屈です。アメリカのかかわった戦争でいえば、第一次大戦、第二次大戦、朝鮮戦争はこの理屈にあてはまりました。理由は、その時に軍での雇用、武器の製造などが増えたからです。しかしそれ以後は?すでに軍は充分な兵を雇用し続けています。軍事産業も恒常的に兵器を作っています。だから新たに戦争を起こしても、極端に言えば今あるものを使うだけで、新たな雇用を産むわけではないのです。もっと厳密には、著者はこうまとめています。

条件がそろえば戦争は経済にとって有益だ。その条件とは、開戦時点での低経済成長、及び開戦時点での低いリソース利用度、戦時中の巨額の継続的な支出、紛争が長引かないこと、本土で戦争が行われない戦争であること、資金調達がきちんとした戦争であること。

こんなふうに、本書は戦争をテーマにした一般的な本とはまったく違う視点で戦争を見つめ直しています。それが一貫していたところがまた新鮮でした。そしてとても親切。私のような数式がわからない人のためでもあるのでしょう、豊富なグラフと表が読者の理解と納得を的確にサポートしてくれますし、各章の最後にはまとめがきちんと書かれています。一言でいえば、著者に好感がもてるつくりでした。


その他、本書で興味深かった点をメモしておきます。

アメリカの軍事費は桁違いに巨額で、2000年で3357億ドルとなっており、2位の日本・467億ドルとかなりの差がある(ストックホルム国際平和研究所調べ)。しかし、アメリカはその分GDPの額も巨大なので、軍事費を対GDPで見ると47位にしかならない。では、対GDP比で軍事費の割合が高い国上位は?1位から順に、北朝鮮、コンゴ、エリトリア、オマーン、サウジアラビア、クウェート(個人的には、産油国がなぜそんなに上位なのかの解説が欲しいところだと思いました)。

PMC(民間軍事会社)は有能。シエラレオネ政府はPMCのEO社を雇い、22ヶ月3,500万ドルの契約で内戦を終わらせることができた。しかしその後やってきた国連出資の西アフリカ連合軍は、8ヶ月で470万ドルかけて駐留したが、シエラレオネは内戦状態に戻ってしまった。なぜPMCは有能なのか?それは優秀な軍人を高給で雇っているから。高給でもPMCが利益を産める理由は4つ。1.優秀な人は仕事を短時間でこなす(コストが低い)。2.高給取りは仕事を辞めないので、新人採用費用を抑えられる。3.研修はアメリカ政府がやってくれている。4.PMCはアメリカ政府と違って軍人の面倒を一生見なくてもいい。

この本によると、紛争の真の原因は民族や宗教の対立ではなく、貧困、資源採掘、強欲、少数民族からのリソース搾取、格差などとのこと。その中でもっとも強力なのは資源採掘。その国のGDPの相当部分が原材料(鉱物、宝石など)の輸出から成り立っていると、紛争の起こる確率が高くなる。具体的には、GDPの26%以上が原材料依存だと紛争リスクは最大になる。理由は、1.天然資源は反乱軍の資金源になる 2.天然資源が国の特定部分に集中していると、不満分子はその部分だけ分離独立すれば有効で儲かると思いがち 3.不平等が生じやすい(富の不平等配分など) 4.財源として課税ではなく天然資源に頼る政府は、きちんとした行政組織を作ったり市民の要望に応えたりするインセンティブがない 5.天然資源に依存した経済は交易条件の変化からくるショックに弱い 6.近隣国がその国の資源を収奪しようとして内戦をあおるかもしれない

テロリストは貧乏でもなく、低学歴でもない。パレスチナの自爆テロリストのうち、貧困家庭出身者は13%、高卒以上が57%。パレスチナの平均は、それぞれ全体の1/3、15%。その他のデータも調べた結果、人がテロに従事する可能性と関係があるのは、国の規模と市民権の水準だけだった。後者から推測すると、政府から邪魔されずに平和な形で抗議することが難しい国はテロリストを生みやすいといえる。比較的裕福だが抑圧の厳しい国家はテロリストの温床になりやすい(例:サウジアラビア)。


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