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日本はなぜ真珠湾攻撃を行ったのか その2

日米開戦の真実 (小学館文庫)

大川周明のラジオ講話

「なぜ日本は真珠湾攻撃を行ったのか」について、前回とは違った視点で書かれた本を探していたところ、妻が一冊の本を紹介してくれました。戦後、東京裁判において政治家以外で唯一A級戦犯(平和に対する罪)で起訴された大川周明が、太平洋戦争開戦直後にNHKラジオで語った「戦争の目的とそこに至る経緯」に関する講話を書籍化し、解説を加えたというものです。それがこの本、佐藤優「日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」。開戦当時の日本人の(というより政府の)言い分は是非知りたいところなので、早速図書館で借りてみました。

読み進めてまず思ったのは、大川周明の見識の広さと講話内容の簡明性です。個人的に、大川周明は大物右翼思想家くらいにしか思っていなかったのですが、完全に見方が変わりました。国際情勢に関する膨大な情報を国民にわかりやすく筋道立てて説明できる、つまりは相当優秀な学者であると感じざるを得ませんでした。それくらいに「おもしろくてわかりやすい」講話だったのです。

その大川が説明した日米開戦の意義とはどのようなものなのでしょうか。一言で言えば、「アメリカはここ数十年で東洋の利権に注目して日本の妨害をしてきた。だから衝突は避けられない。」というものです。

こう書くとあまりにあっけないのですが、大川の講話は浅いものではありません。個人的に、大川の講話を読んで改めてわかったことが2つあります。ひとつは、アメリカが東洋利権に(私が思っていたより)かなり執心していたこと、もうひとつは、当時の日本の中国侵攻についての考え方です。


アメリカの東洋利権への執心

まずひとつ目のアメリカの東洋利権への執心ですが、大川によると、それは1898年、アメリカがスペインからフィリピンやキューバを獲得した米西戦争からはじまるそうです*1。その後、アメリカの鉄道王が、日露戦争で日本が手に入れる予定の南満州鉄道の権益の半分を買収しようとしたり(いったん桂首相がこれを認めたが小村寿太郎が取り消した)、イギリスと組んで満鉄のライバル路線を作ろうとしたり(中国で革命が起こって話は流れた)していたそうです。これは知らなかった。アメリカも中国の権益を狙っていたんですね。

その後、ワシントン軍縮会議で日本の戦艦・空母の総トン数がアメリカ・イギリスの6割とされ、その後のロンドン軍縮会議でも日本の軍艦には制限が加えられるなどして、日本が追い込まれていったことは大川ももちろん書いています*2


当時の日本の中国侵攻についての考え方

次に、この講話を読んで個人的に新たに知った二つ目、当時の日本の中国侵攻についての考え方について。これが、大川の講話の中で現代と最も異なるポイントだと思います。要するに、中国の権益を日本が得ること=略奪だという認識が一切ないのです。

これは、大川や当時の日本人が道徳的にレベルが低いという話ではないでしょう。当時はそれだけ帝国主義が「常識」だったということなのだと思います。大川は日露戦争以後、「日本は、朝鮮・満州・支那を含む東亜全般の治安と保全とに対する重大な責任を荷(にな)い、かつその重任を見事に果たしてきたのであります。」と述べています。これが、実際はどうだったかは別にして*3、当時の日本人の感覚だったのでしょう。


日米開戦の理由

このふたつを考え合わせると、大川の述べる「アメリカはここ数十年で東洋の利権に注目して日本の妨害をしてきた。だから衝突は避けられない。」という論も現実味を帯びてきます。実際、大川は講話で「いかにアメリカが日本の意図(東亜の発展)を理解せず、日本の理想を認識せず、間断なく乱暴狼藉を働きかけてきたかは、三日にわたって(ラジオ講話は6日にわたって行われた)述べたとおりであります。」と述べています。日本は正当なことをしているのに、アメリカが邪魔をする、これは日本としてもだまっていられない、というような流れなのでしょう。

大川の論じる日米開戦の理由は意外でもなんでもありませんが、その背景・経緯をわかりやすく説明しているので、その理由の現実性が現代の私たちにも浮き彫りにされているように感じました。日本が、「何かの間違いでいつのまにか」戦争を始めたわけではない(そういう要素もあるのかもしれませんが)ということが大川の講話から学べたような気がしています。


その後、上記の内容+αを英語でも書いてみたところ、海外の何人もの方からコメントをいただきました。

*1:大川は、それ以前のアメリカについては評価しており、例えばペリーを「なかなか立派な人物」としその理由も挙げて説明しています。このような点も、大川が単なる国粋主義者の類とは違った視点を持つ人物であると私が感じた理由のひとつです。

*2:個人的には、なんでそんな悪条件を飲んだのかが知りたかったのですが、大川もこれは「敵国に褒めそやされる条約」と書いており、条約締結当時、なぜそんな条件を飲んだのか、このままでは米国の属国となるか戦争かどちらかだ、と予言しています。

*3:植民地支配には植民地にプラスの面もマイナスの面もあると思います。個人的には、多くがマイナスかなと思っているのですが。


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