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日本はなぜ真珠湾攻撃を行ったのか その1

英文ブログで、日本人が真珠湾攻撃についてどう感じているかを書いたところ、「日米交渉中だったのに、そもそもなぜ真珠湾攻撃を行ったのか」という質問コメントがつきました。きちんとお応えしたいところですが、実は私もよく知らないので、本を読んで調べてみることにしました。特に知りたいのは、開戦に至る経緯と、そもそもなぜ圧倒的に国力に差があるのに開戦に踏み切ったのか、の2点です。


開戦に至る経緯について

まず、開戦に至る経緯について、マイクロソフト「エンカルタ総合大百科2002」から。簡単にまとめると、日本政府の動きは以下のように変わっていったようです。

・日中戦争の長期化 → 日本、窮迫していた石油・ゴムなどの重要軍需物資を確保したい → 南進論が高まる
・日本は、アメリカやイギリスの対中国援助ルートを遮断したい → そのためにも南方進出したい
・1940年、日本、フランス領インドシナ北部に進駐 → アメリカ懸念 → 1941年4月、日米交渉始まる
・アメリカは日本の中国撤退を要求 → 日本、ソ連国境付近に70万の大軍集結、7月にはインドシナ南部に進駐 → アメリカ、対日石油輸出の禁止、イギリス・中国・オランダと協力して対日経済封鎖
・10月、交渉論者の近衛内閣から開戦論者の東条内閣に
・11月、アメリカ国務長官ハル、日本の中国・インドシナからの全面撤退などを内容とする強硬なハル・ノートを提示 → 日本、12月1日に開戦決定

ここまで読むと、南方の資源と中国での権益が欲しかった日本が、アメリカの強硬な反対に反発して戦争を起こした、という経緯が読みとれます。


この経緯について、一部で言われているのは、1941年11月のハル・ノートがあまりにも強硬であったため、日本政府はこれを最後通牒と見なし、開戦せざるを得なかったという考え方です。つまり、開戦は日本のやむを得ない選択であり、むしろけしかけたのはアメリカである、というわけです。

これについて、吉田裕「アジア・太平洋戦争」では、開戦の意思決定とハル・ノートは関係がない、という指摘をしています。なぜそう言えるのかというと、実質的な開戦意思は、1941年11月5日の御前会議で決定しているからです。具体的には、この御前会議で決定された「帝国国策遂行要領」に「武力発動の時期を十二月初頭と定め、陸海軍は作成準備を完整す」と記されているとのこと。一方、ハル・ノートが翻訳され関係者に配布されたのは11月28日。ハル・ノートを読む前から、日本政府は開戦の意思決定を行っていたことになります。

アジア・太平洋戦争―シリーズ日本近現代史〈6〉 (岩波新書)

また、東京裁判の国際検察局文書によると、東条英機や木戸幸一は、裁判で11月5日の御前会議の存在を極力否認しようとしたそうです。実際裁判当初はアメリカにこの御前会議の存在は知られていなかったのですが、後日別ルートからそれが存在したことが明らかになり、その結果東条が「記憶の錯覚」があったとし、最終的には11月5日の御前会議の存在を認めるに至っています。11月5日の御前会議は、戦争責任論においてそれだけ重要なものだったと日本側元首脳が認めていた(だから隠そうとした)ようです。

そうなると、アメリカに追いつめられてはいたものの、開戦に踏み切ったのはあくまで日本の判断、と考えるのが自然な気がしてきます。ただ、まだ1冊しか本を読まずに判断するのは避けたいので、後日、少なくとももう1冊は、別の考えを書いた本を読んでみたいと思います。

(2016年追記:その後6冊の本を読んでみました。)



なぜ国力に差があるのに開戦に踏み切ったのか

続いて出てくる疑問は、なぜアメリカと日本では圧倒的に国力に差があるのに日本は開戦に踏み切ったのか、というところです。やむにやまれぬ戦争ならまだしも、自発的に始めた戦争なら、本来勝算があってこそのはず。

吉田裕「アジア・太平洋戦争」は、これについてもこんな記述をしています。まず、大きな理由として臨時軍事費による軍備拡充が行われていたこと。開戦前の臨時軍事費の総額は256億1800万円。満州事変(1931年)の直接軍事費が4億6130万円であることを考えると、相当な額です。このため、吉田氏によると、「開戦時の太平洋地域においては、日本の戦力はアメリカを凌駕していた」とのこと。ここから、「短期決戦に持ち込めば、英米を屈服させる見通しがあるという幻想」が生まれたそうです。

他にも、軍部への統帥権の独立(軍の統帥は天皇が行うことであり、議会や内閣の関与を許さないという考え方)があったから政府は軍部をコントロールできなかったとか、システム面での問題もあったようですが、軍部の一部の人たちの間だけにしろ勝算を持ってしまったのは、軍備拡充が原因だったのかもしれません。


さて、次はどんな本を読もうかなあ。できるだけ違う視点を持った本を読みたいところです。


他に読んでみた本


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