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遺伝子は環境の影響を受けやすくなっている - マット・リドレー「やわらかな遺伝子」その1


ここ数年、「氏か育ちか」論争に関係した本を何冊か読んできましたが、ついに決定版とも言える本を見つけました。それがこの「やわらかな遺伝子」です。

この本が主張する説は明確です。氏か育ちか、という二元論は意味がない。正解は「遺伝子は環境の影響を受けやすくなっている」というものです。環境の影響を受けやすいのだから「氏」だけではない。しかし人間が環境の影響を受けやすくなっているのは遺伝子によるので「育ち」だけでもない。そういう説です。

多くの人が、人がどんな人間になるのかは、氏も育ちも両方関係あるとなんとなく感じていると思います。私もそうでした。この本では、その感覚にぴったりフィットするような考察を、山のような興味深い実例と飽きさせない筆致で綴ってくれています。

その事例のいくつかを、忘れないようにメモしておきます。例によって、点線部分はよしてるによる要約または引用です。


スイッチ

チンパンジーとヒトの遺伝子は、95%ほどが同じ。ではなぜこんなに違うのか?「デイヴィッド・コパフィールド」と「ライ麦畑でつかまえて」は、ほとんど同じ単語を使って書かれているが、内容はまったく違う。ヒトとチンパンジーもこれと同じで、ほぼ同じ3万個の遺伝子は、それぞれ違ったパターンや順序で使われている。

では、その変化はどのようにしてコントロールされているのか?実は、多くの遺伝子は、他の遺伝子のスイッチオン・オフを手助けする仕組みになっている。ある遺伝子のスイッチがどれだけオンまたはオフになりやすいかは、DNAの「プロモーター」といわれる領域の感度に影響される。

例えば、脊椎の長さを決める遺伝子は、マウスとニワトリで200文字中2文字が異なるだけだが、この2文字でプロモーターがまったく別物になり、ニワトリはマウスに比べて胸郭が広くなる。

ここで大事なのは、このプロモーターは時間という次元で発現するということ。タイミングがすべて。ヒトとチンパンジーの頭が違うのは、設計図が違うのではなく、チンパンジーの方があごに長く時間を、頭蓋に短く時間を使っているというわけである。

このことがなぜ大事なのか?遺伝子ははじめから設計図を作り上げているのではなく、スイッチによるネットワーク(ある遺伝子の発現を強めると別の遺伝子の発現が弱まり、また別の遺伝子の発現が強まり・・・)の影響が大きい。それならば、そこに「育ち」などの外的要因が入り込む余地があるのではないか、と考えられるからである。

非常に面白くてわかりやすいんですが、最後の理屈だけがよくわからない。「育ち」の入り込む余地がなぜあるのか・・・ここは本書の説を唱える上で非常に重要な部分。

でも、こんな大事なところが納得いっていないのにこの本を面白く読めたのは、以下のような興味深い事例が満載だからです。


男女差

北はアラスカから南は南アフリカまで、37の文化に調査をおこなったところ、どこも例外なく、女性は男性の金銭的豊かさを重視した。一方、男性は女性の金銭的豊かさを重視しない。差は日本で最も大きく、オランダでもっとも小さかった。これは本能か、文化か?おそらくどちらも正しい。

ここまでわかったのなら、今度は日本とオランダの差異の理由を知りたくなりますね。残念ながらそこまでは書かれていませんでした。


性格には遺伝性がある

心理学者トマス・ブーチャードは、「別々に育てられた一卵性双生児」と「別々に育てられた二卵性双生児」の比較をおこなった。これにより判明した、一卵性双生児の相関が高かった、つまり遺伝性が高いと思われる項目は次の通り: 信仰心、原理主義的傾向、右派的態度(移民にノー、死刑にイエス等の回答)

その他、多くの双子の研究により、性格は遺伝性を持つものだということが明らかになりつつある。本来的な人格は、家庭環境の影響をほとんど受けない。

では、どのような遺伝子が性格に個人差をもたらすのか?そのうちのひとつと言われているのが、脳内の神経の成長を促す遺伝子。この遺伝子の192番目の文字はGだが、一部(全体の4分の1)の人間ではAになっている。すべての人間は遺伝子をふたつもっているので、この文字については3種類の人間がいることになる。GG、AA、GAだ。このうちの1タイプを有する人は、気が滅入りやすく、自意識が強く、心配症で、傷つきやすい。しかしこの知見は、人々のあいだに見られるばらつきの4パーセントほど(よしてる注:何の4パーセントなのかはわかりませんでした)を表しているに過ぎない。

個人的にはこれは驚き。性格はほとんどが「育ち」だと思っていたので・・・これを読んで思ったのは、自分自身の性格で「好きじゃないな」とか「不便だな」と感じている部分は、無理に直そうとかせずに、うまくつきあっていくのがいいのかなってことです。


では遺伝性の低いのは?

人間の行動には少数だが遺伝性の低い特質もあることがわかった。たとえばユーモアのセンスがそうだ。・・・食べ物の好みにも、ほとんど遺伝性がないようである。それは、遺伝子ではなく初期の経験によって決まるのだ(ラットでもそうなる)。・・・信仰する宗教も、遺伝子でなく文化によって受け継がれる。しかし信心深さはそうではない。

これも意外でした。でも食べ物の好みの話はよくわかるなあ。すごく嫌いな食べ物がある人って、よくそれにまつわる嫌な思い出を話してくれたりするから。

知能をテーマにした双子研究は、環境が大きな役割を果たすことも明らかにしている。性格と違って知能は、家族の影響を強く受けるようだ。IQは、約50%が「相加遺伝的」(ひとつの遺伝的形質ではなく、複数の働きの総和として決まっているということ)で、25%が共通の環境の影響を受け、残りの25%は、個体ごとの独自の環境要因に左右されているというわけだ。

しかし、IQのばらつきに対する「共通環境」の寄与は、20歳未満の人でおよそ40%だが、年齢が高くなるほどパーセンテージはゼロに近づいていく。この事実は、遺伝子は早くに発現し、そのあとで環境の影響が生じるという昔からの見方を覆す、直感に反する発見だった。

個人的には、知能が環境の影響も大きく受けるというくだりよりも、遺伝子の影響が年齢が高くなるほど強くなっていくということのほうが驚きでした。家庭環境の影響ってそんなになくなっていくもんなんだ・・・


続きは↓のメモで。


関連メモ

同じ著者の別の本。


「氏か育ちか」関連本の要約・メモ集。


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