庭を歩いてメモをとる

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アンジェラの灰、小さな中国のお針子

アンジェラの灰

「アンジェラの灰」を観ました。20世紀前半のアイルランドはリムリックが主な舞台。タイトルこそ「アンジェラの灰」ですが、主人公はアンジェラお母さんではなく、貧しいながらも成長していくその息子。息子はその後アメリカに渡り、この小説を出版、ベストセラーになります。つまりこれは実話に基づく物語だということです。

単なる成長記として観ても佳作だったと思うし、合間合間に見られるイギリスへの憎しみ(「シェイクスピアはきっとアイルランド人だよ」には笑ったし、こういう見方もするんだと驚いた)、生活全般におけるカトリック教会の重要性(この映画で聖餐式と堅信礼がどういうものがなんとなくわかりました)、そして当時のアイルランドの貧しさ(今や一人あたりGNPは日本を抜いているのに)なんかも興味深かった。

ところで、この映画を観て連想した別の映画があります。「小さな中国のお針子」です。

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こちらは、中国のインテリ青年が文化大革命の影響でバイオリンさえ知られていないような僻地に送り込まれ、厳しい労働に明け暮れながらもその村の少女と友情を交わし恋をしていくロマンスです。こちらも自伝的な作品で、同様の経験をした中国人がその後フランスに渡りそこでベストセラーになった小説がもとになっています。綴られている体験のドラマティックさと、「アンジェラの灰」にはない独特の切なさがぐっとくる、個人的にはより印象深い作品でした。

なんでこの二つの映画が連想されたかというと、もちろん「自伝的作品」という共通点がまずくるのですが、もうひとつ。それは、新天地(アメリカだったりフランスだったり)への憧れが明確に映し出されている点です。

「アンジェラの灰」では、アメリカへの思いが繰り返し描かれます。少年はアメリカの映画に夢中になるし、町角にある自由の女神のイミテーションも節目節目で映し出される。「小さな中国のお針子」でも、外国の小説が禁じられている中、憧れの対象として特にフランス文学がよく登場します。クライマックスではバルザック

両作品が著者の移住先でベストセラーになった背景には、こういう、移住先の国の人々の誇りを刺激するようなポイントがあったことも無縁じゃないんじゃないかな、なんて思った次第です。両作品とも、それが鼻につくような演出ではないので、映画としての面白さには影響していないとは感じましたが、「移住先賛歌」としての機能は果たしているように思いました。


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