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浅田次郎「蒼穹の昴」

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

清朝末期。少年春児(チュンル)は極貧のまっただ中にいるが、ある日占い師から驚愕の将来を告げられる。一方,兄貴分の文秀(ウェンシウ)は「不良」だが頭脳はずば抜けた存在。この二人を中心に、激動の時代に様々な人物がそれぞれの運命を生ききる情熱がうずまく・・・そんな物語でした。

想像上の人物の他に、西太后、李鴻章など実在の人物も独特の解釈と生き生きとした人間的描写で鮮やかに描かれていますし、「この人物とあの人物にこんなつながりがあったかも・・・」という歴史小説ならではの想像も旺盛です。ほんと「ドラマ」って感じ。

ただ、そんなふうにいろんなドラマがごった煮になっているため、物語のまとまりという点では、混沌としていて不完全な印象もありました。しかし、それこそがこの小説の魅力なのかも。そのまとまりのなさが逆に登場人物それぞれの生き様に命を吹き込んでいるような気がしたのです。不完全な人間が、自分ではどうしようもない運命に対し、時には抗い、時には受け入れているようなイメージで。

読み終わってからふと思ったのが、明治維新ってすごいタイミングで起こったことなんだなってこと。逆に言うと、この頃の中国がどれほど混沌として「遅れ」をとっていたかってことでもあるんですが。あと、この小説の西太后観って、最初はかなり意外に感じましたが、読み進めるにつれてだんだんと納得させられ、読み終わった頃にはすっかりこの「説」を受け入れている自分がいました。こういう「視点の転換」も歴史小説の妙ですよね。

いろんな要素の詰まった、まさに読み応えのある物語でした。


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