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嘘つきアーニャの真っ赤な真実

「デスノート」も噂どおり1ヶ月あまり休載になるし、日経新聞「私の履歴書」のドラッカーも今日終わってしまったしで、「定期的な楽しみ」が一挙にふたつ減ってしまい残念。

しかしもちろん、世の中には他にも面白いものはたくさんあります。ここ数ヶ月間で読んだ小説のなかでは「オリガ・モリソヴナの反語法」がかなり「あたり」だったのですが、今日は同じ著者・米原万里の「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」(角川文庫)について書いてみます。こちらはノンフィクションですが。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

米原氏は1960〜1964年(小学生〜中学生)、チェコのプラハ・ソビエト学校で、50カ国以上から来た同級生とともにオールロシア語の授業を受けていた人です。当時、国際共産主義運動の理論誌をつくるため、各国の共産主義団体から人がプラハに派遣されていたのですが、その人たちの師弟がこの学校に通っていたというわけです。

で、この本についてはどうかというと、この時代にここまで国際的(しかも共産主義陣営で)な環境で育った著者が、文才があり本を書く人でよかったと思わせる内容でした。貴重な経験をユーモラスに描くだけでなく、当時の同級生が今どうなっているかを追い、同級生に再会した経験も併せて書いているのですが、これによって「東欧」の国々の歩んだこの40年間の変化の一部を肌で感じることができる構成です。同級生に対するあたたかなまなざしが基調にあって、小説のような雰囲気で読み進められるノンフィクションなのですが、冷静な視点も随所にあり、そこがまたこの作品をよりいっそう興味深くしています。

例えば、「東欧」という言葉について。著者によれば、ポーランド人もチェコ人も、ハンガリー人もルーマニア人もこの言葉でひとくくりにされるのをひどく嫌い、即座に「中欧」と訂正するそうです。この「東欧」という言葉は、発展から取り残され、冷戦で負けた社会主義陣営を意味しており、この国々の人々はこれに非常に敏感なのだとか。この嫌悪感が、東方正教への近親憎悪的敵意につながっているのでは・・・との指摘には、その後のユーゴの惨状などを考えるとうなずけてしまいます。

3つの短編が収録されています。どれも興味深かったですが、個人的には、90年代のユーゴまでを描いた「白い都のヤスミンカ」がもっとも考えさせられました。再会した同級生のヤスミンカは、ベオグラードで一件平穏な市民生活を送っていますが、戦争の可能性を間近に感じているため家具を新しく買っていないのでした。そのくだりと、その後99年にNATOとアメリカ軍がベオグラードを爆撃したという事実が重く胸にのしかかりました。


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