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手塚治虫「ブラック・ジャック」

(2018年3月9日更新)


天才だが無免許で法外な治療費を要求する外科医ブラック・ジャックが世界各地でオペをふるう・・・という物語説明はこの作品には不要かもしれませんね。アニメ化も果たされ、完全に手塚治虫の代表作のひとつになった感のある作品ですが、連載開始当時は手塚治虫の人気がどん底だった頃で、担当編集者は上司から「手塚さんに引導を渡してこい」と言われていたそうです。

それはともかく、この作品を1週間に1作描いていた手塚治虫は、やはり「神様」だったのかもしれません。短編まんがの(いや、短編小説の)お手本のような物語があふれているこの作品を読むと、もし手塚治虫が英語圏の人だったら、この1作だけでも、少なくともO・ヘンリ以上の評価が得られて、世界中に「まんが」がもっともっとあふれていたのでは、なんて思います。

「刻印」

そんなふうに忘れられない物語が満載ですが、奥深さでひとつ思い出されるのは「刻印」です。

ブラック・ジャックの幼なじみ間久部は「暗黒街のプリンス」と言われるような犯罪者になっていた。彼はブラック・ジャックに指紋を変えてもらうよう頼み、手術は無事成功する。しかしブラック・ジャックが帰るとき、かばんが爆発し重傷を負う。その後、間久部は指紋が違うため警察の追求を逃れていたが、ブラック・ジャックからのメッセージで事態は急変する・・・

そんな物語なのですが、これ、最後まで間久部とブラック・ジャックが心の底で思っていたことがわからないようになっています。もともと連載時は違う話だったものを手塚が単行本収録時に書き直しこうなったようですが、十数ページの中でこんな奥深さを見せてくれるまんがはなかなかありません。「ブラック・ジャック」の中では異色作ですが、手塚の才能の一端を見せてくれる回ではあると思います。

他にも、彼の才能の端々をそれぞれの物語が見せてくれる作品です。手塚キャラクターが数多く出演しているだけでなく、こういう点でもまさに手塚治虫の代表作というにふさわしい作品と言えるのかもしれません。

なお、秋田書店による読者人気投票では全231エピソード中5位でした。

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